Traders: Risks, Decisions, and Management in Financial Markets

金融機関に勤めるプロトレーダーの「生態」について学術的に調べたもの。ロンドン大学だっけかな?
この本の一部は、論文としてパブシッシュされている。

FENTON-O'CREEVY : TRADERS

FENTON-O'CREEVY : TRADERS

カーネマンがノーベル賞を受賞したことや近年の株式投資ブームにより、プロスペクト理論や様々な認知的バイアスは広く知られるところとなった。
これらを明らかにした実験の多くにおいて被験者は学生である一方で、マーケットに大きなインパクトを持つのは金融機関などに勤務するプロトレーダーだ。
行動ファイナンスでは、プロトレーダーと学生の意思決定や認知的バイアスの程度に差があるということが一部で明らかにされてきており*1、プロトレーダーを被験者とした研究が見かけられるようになった。
この本は、200名あまりのプロトレーダーの協力のもと行われた研究をまとめたものであり、そのような研究の中でも大規模なものだ。


論文にもなっている部分は、5ファクターモデルの性格診断や、独自に開発した自信過剰バイアス測定テストを行い、パフォーマンスへの影響を見たところ。
その結果、「内向的で神経質じゃなくて、経験に対する開放性が高くて、自信過剰バイアスが弱い」トレーダーほどパフォーマンスが高かったそうだ。
ただ、ここでのパフォーマンスは、損益そのものではなくて、上司などによる評価となっている。
ちなみに、Andrew Loも5ファクターモデルで性格診断をし、パフォーマンスへの影響を調べているが、Loらは有意な結果は得ていない。


性格特性とトレードの関係というのは一般的には受けが良さそうだけど、研究としては???って感じ。
著者らが述べているように、「ある性格の人はある認知的バイアスを受けやすい」ということはありそうだけど…
心理学とかでは面白いのかなぁ?心理系のジャーナルで、性格と仕事の出来・不出来みたいな論文を他にも見たことがある。

成果として見るべきなのは、自信過剰バイアスとパフォーマンスの間に関係が認められたことの方かな。
行動ファイナンスでは色んなバイアスが報告されているけど、実際どのバイアスがどのようにトレードに影響しているかっていうのはそれほど明らかではない。
よく行動ファイナンスの本ではプロスペクト理論に基づいたトレードの説明とかしているけど、あれも実験的には明らかではない。
ここでは、自信過剰バイアスがトレードに影響しているのを示唆する結果が得られているわけで、強いて言えば、そこは成果。
ただ、自信過剰バイアスとトレードの関係はこの本の著者らの研究よりGlaserらの研究の方がまともで、そっちの方が面白いと思う。


それなりに値段高かったのだけど、全体として読むべき価値はなかったかもなー。残念。
…まあ、「方向性としては自分と同じようなことを考えている人がいてそれが本になっている」という事実には勇気づけられた。

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  • Loの論文をもう調べてみようか
  • Glaserらの研究

*1:心理的レベルでも取引レベルでも